社員2人のちいさな出版社が、“あんまり歌って踊らない”異彩のインド映画の配給に挑戦!
『アハーン』は、インド ムンバイを舞台とした「ヒンディー映画初のダウン症当事者が主役の作品」にして、サバイバル・コメディと呼べる日常譚。ムンバイ出身ニキル・ペールワーニー監督の長編デビュー作である。2019年にメルボルン・インド映画祭で初公開された際には、自主制作作品でスターパワーほぼゼロながら好評を博し、インドのメディア Firstpostは本作を“インド映画史における画期的な作品”と評している。
本作最大の注目点は、ダウン症を持つ主人公アハーン役を演じるアブリ・ママジである。彼のキャラクターと存在感は、作中でひときわ輝きを放っている。彼自身ダウン症当事者であり、本作で俳優デビューを果たした。監督のニキルは、本作のリサーチで障がい者のためのデイケア施設を巡っていた際、俳優を夢見るアブリと出会う。初めは当事者キャスティングを想定していなかったが、二人で時間を過ごし、映画への情熱を共有するなかで、「“アブリはダメだ、彼には無理だ”って誰が言えるんだろう、挑戦させもせずに?」という想いが生じ、アブリを主演に抜擢するに至った。この偶然に導かれた出会いによって、障がいのある人々が直面する現実を真摯に見つめながらも希望とユーモアを忘れずに、ダウン症青年の日常をストレートかつコミカルに映し出す、“あんまり歌って踊らない”異彩のインド映画が誕生した。
配給を担うのは、医療・健康領域の本を中心に扱う出版社「生活の医療株式会社(通称:生活の医療社)」。
これまで映画の配給とは縁のなかった、社員2人の小さな会社。生活の医療社代表・秋元氏が、国際線の機内上映にて日本未公開であった本作を鑑賞し感銘を受け、多くの人とこの作品を共有したいと、“翻訳書を出すようなつもり”で日本での配給権を取得。様々な縁が実を結び、日本公開に至った。
【スタッフ】
ニキル・ペールワーニー (Nikhil Pherwani)
【キャスト】
アブリ・ママジ (Abuli Mamaji)、アリフ・ザカーリア (Arif Zakaria)、ニハリカ・シン (Niharika Singh)、プラビータ・ボルタックール (Plabita Borthakur) 他
ダウン症をもつ青年アハーンは、愛情深い両親と共にインドの大都市ムンバイに暮らしている。何不自由のない日々を過ごすアハーンであったが、周囲の目を気にする両親の”配慮”によって家に縛り付けられた彼は「自立したい」「仕事を見つけたい」「素敵な女性と結婚したい」という切実な思いを募らせていた。一方、中年男性オジーは、気難しい性格と潔癖症が過ぎて妻のアヌに見限られ、家に一人取り残されていた。そんな折、アヌと親交があるアハーンはオジーの家を訪れる。オジーは妻と会うためにアハーンを利用することを思いつき、自由な外出を願うアハーンとの間の奇妙な協力関係が始まることとなるのだが……。